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2024年7月に開催された第12回IndoEBTKE Conferenceでは、再生可能エネルギー、テクノロジー、政策に関する幅広い議論が行われました。全体を通して焦点となったのは、「エネルギー移行をいかに資金面で支えるか」、すなわちその資金をどこから、どのように動員するかという点でした。

インドネシアは2030年までに温室効果ガス排出量を31.8%削減(国際支援があれば43.2%削減)し、2060年までにネットゼロを実現することを目指しています。この目標達成には膨大な投資が必要であり、国際エネルギー機関(IEA)は、エネルギー分野の脱炭素化に向けて2030年までに1,500〜1,600億米ドルの累積投資が必要と試算しています。インドネシアはすでに「公正なエネルギー移行パートナーシップ(JETP)」を通じて200億ドルの支援を確保していますが、これは必要額のわずか12~15%に過ぎません。

IEAが掲げる2030年目標の達成は、インドネシアにとって国家的な使命であると同時に、世界全体の責務でもあります。こうした背景から、インドネシアにおけるグリーンエネルギー移行の資金動員をいかに加速させるかが喫緊の課題となっています。

エネルギーファイナンスの現状と課題

インドネシアはASEAN諸国の中でも、サステイナブルファイナンスにおける資金ギャップが最も大きい国の一つです。その背景には、石炭への依存とエネルギー需要の増大があります。現在の発電構成を見ると、約62%が石炭による一方、再生可能エネルギーの比率は約12%に留まっています。国内融資も依然として化石燃料に偏っており、2023年時点ではエネルギー関連融資の約78%が石炭関連プロジェクトに向けられ、再生可能エネルギー向けは10%にも満たない状況です。

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この偏りは、資金の流れが依然として気候目標と整合していないことを示しています。しかし資金ギャップを解消できれば、インドネシアは気候変動対策のリーダーとしての地位を確立し、グリーン投資の地域拠点となる可能性を秘めています。

資金不足がもたらす停滞

資金不足はすでに現場レベルで影響を及ぼしています。例えば、東インドネシアでは離島地域の太陽光発電プロジェクトが、銀行融資を得られず実現段階に進めない例が多く見られます。また、ジャワ島では廃棄物発電が政策的に支援されているものの、採算性の不透明さが障壁となっています。さらに、B35・B50政策(バイオ燃料拡大)も、大手製油企業以外では資金調達が進んでいません。

こうした課題は世界共通で、いわゆる「ミッシング・ミドル(中間層の資金調達ギャップ)」として知られています。マイクロファイナンスには大きすぎ、商業銀行にはリスクが高すぎる中間規模案件のための資金メカニズムを整備しなければ、多くの有望なプロジェクトが停滞したままとなります。

このまま資金ギャップを放置すれば、石炭依存が長期化し、脱炭素コストの増大や投資家離れ、公衆衛生・経済安定への悪影響を招く可能性があります。

世界から学ぶ成功モデル

世界各国では、革新的な金融スキームによって資金動員を実現した事例が数多く存在します。IEAは、リスク分担メカニズムと透明性の高い制度設計がギャップ解消の鍵になると指摘しています。

  •  シンガポール(Temasek):初期段階のプロジェクトに触媒資金を投入し、1ドルの公的支援で4〜5ドルの民間資本を呼び込むモデルを構築。
  • 包括的資本主義評議会によるケーススタディでは、Temasekがインパクト連動型ファイナンスを設計し、気候関連プロジェクトの拡大と社会的価値の創出を両立させた事例が紹介されています。
  •  チリ:部分保証付きソブリン・グリーンボンド(政府発行のグリーン債)を発行し、機関投資家の参入を促進。
  •  ベトナム:明確な固定価格買取制度(FIT)により、2年間で74億ドルの太陽光投資を実現。
  •  インドネシア:ソブリン・グリーン・スクーク(イスラム債)を通じて10億米ドル超の地熱発電プロジェクト資金を動員し、CO₂排出を数百万トン削減。

これらの成功事例に共通するのは、リスク分担の明確化、収益の予見可能性、情報開示の透明性という要素です。

インドネシアに求められる資金設計

インドネシアの資金調達モデルは、現実的かつ自国の経済構造に即したものでなければなりません。IEAは、カタリティック・ファイナンス(触媒的資金)とブレンデッド・ファイナンス(官民連携型資金)の活用を通じて、公的資金と民間資金の双方を動員し、「ミッシング・ミドル」を解消することを提唱しています。具体的には、INA(インドネシア投資庁)やPT SMI(インドネシア財務省系インフラ金融機関)を中心に、触媒的資本をプラットフォーム化し、優遇条件付き資金を呼び水としてDFI(開発金融機関)や民間銀行の投資を誘引する仕組みが重要です。同時に、強固な再生可能エネルギー向けの金融メカニズムを整備することも重要です。政府発行に留まらない地方自治体・企業レベルでのグリーンボンドやグリーン・スクーク発行の拡大が、国内プレーヤーのESG資金アクセス向上に繋がります。

官民パートナーシップ(PPP)では、リスクとリターンの明確な配分が投資家の信頼を左右します。料金設定、オフテイク保証、パフォーマンス条項の設計を通じて、投資リスクの低減を図る必要があります。

さらに、RUENやJETPといった国家戦略と資金の流れを連動させ、規制上の安定性を示すことが不可欠です。形式的なESG対応を超え、第三者認証による信頼性の高いESG基準を設定することが、資本コスト低減にも寄与します。

IEAの2030年目標を達成するには、こうした構造的な金融ソリューションを国家政策の枠組みに組み込むことが重要です。資金メカニズムがIEAの気候整合的な投資基準および国際的なベストプラクティスと整合すれば、インドネシアはより幅広いサステイナブル資本を呼び込み、脱炭素化を加速することが期待できます。

未来への道筋

グリーントランジションの資金調達は、単に資金ギャップを埋めることではなく、インドネシア経済の未来を形作る取り組みです。今日動員される1ドル1ドルが、国内の実行力を高め、投資家の信頼を築き、インドネシアをグローバルサプライチェーンの中で確固たる地位に導くものでなければなりません。

世界にはすでに膨大なサステイナブル資金が存在しています。真の課題は、その資金を適切な金融構造を通じて効果的に流し込むことです。気候への確かなインパクトと、経済の長期的競争力を同時に生み出すプロジェクトへの資金循環が鍵となります。

カタリティック・ファイナンス、透明性の高い金融商品、そして官民の強固な協働体制を基盤とすることで、インドネシアは東南アジアにおけるサステイナブル投資の新たな標準を築くことができます。

YCPは、グリーントランジションを単なる気候変動対策ではなく、次世代の成長に向けてレジリエンス・競争力・リーダーシップを再定義する機会として重視しています。

参考文献

  1. Climate Policy Initiative. (2023, August). Landscape of Indonesia power sector finance. https://www.climatepolicyinitiative.org/wp-content/uploads/2023/08/CPI-2023_Landscape-of-Indonesia-Power-Sector-Finance-FINAL.pdf
  2. Larasati, L. K., & Mafira, T. (2023, December 5). Highlights from Indonesia’s JETP Comprehensive Investment and Policy Plan. Climate Policy Initiative. https://www.climatepolicyinitiative.org/highlights-from-indonesias-jetp-comprehensive-investment-and-policy-plan/
  3. Rangelova, K., & Setyawati, D. (2024, July 1). Indonesia and the Philippines coal dependency surges past China and Poland. Ember. https://ember-energy.org/latest-insights/indonesia-philippines-coal-surges-past-china-poland/
  4. Thomasson, E. (2025, May 13). Indonesia sends mixed messages on coal phaseout. Green Central Banking. https://greencentralbanking.com/2025/05/13/indonesia-sends-mixed-messages-on-coal-phaseout/
  5. World Economic Forum. (2022, November). Policy opportunities to advance clean energy investment in Indonesia. https://www3.weforum.org/docs/WEF_Policy_Opportunities_to_Advance_Clean_Energy_Investment_2022.pdf
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