インドネシアとオーストラリアの間で待ち望まれた協定は、インドネシア・オーストラリア包括的経済連携協定(IA-CEPA)と名付けられ、輸出商品の関税を引き下げるとともに、多数の投資インセンティブを提供する内容となっています。既存のASEAN・オーストラリア・ニュージーランド自由貿易協定(AANZFTA)をベースに、IA-CEPAによりオーストラリアからの製品輸出の約99%が、インドネシアで免税措置を受け、大幅に改善された優遇条件を享受する一方で、インドネシアから輸出される製品は全て、オーストラリアでは免税措置を受けることになります。さらに、この協定により、インドネシアとオーストラリアのサプライヤーと投資家の間の双方向投資の条件と見通しを改善することも期待されています。
インドネシア政府は、オーストラリアと強固な二国間貿易・投資関係を構築することで、昨年13億米ドルに達した貿易赤字を削減し、持続可能なGDP成長を維持するために、近隣諸国からの投資を確保することを目標としています。国内の視点に立つと、この協定により、インドネシアの現地企業、特に繊維、消費財、機械産業において、より重要な機会が広がることが期待されます。さらに、インドネシアは医療およびテクノロジー産業からの投資の恩恵を受けることも可能となります。
成長が期待されるセクター
両国間の連携は、インドネシアとオーストラリアが経済大国となり、世界的な需要を満たすためのグローバル・バリューチェーン構築に貢献するための第一歩となります。これはまた、近隣諸国の相互にとって有利な枠組みを作るというIA-CEPAの基本原則に基づいています。原材料の供給能力と質の高い労働力を有するインドネシアは、製造大国になるとみられています。最近のレポートにおいて、7000以上に及ぶインドネシア製品が関税なしでオーストラリアに輸出されることが述べられているため、オーストラリアへの輸出総額は、継続的に増加し続けると予測されています。
オーストラリアは2017年にインドネシアから2億6300万米ドルの繊維品の輸入を記録しており、現在の繊維品の輸出関税を0%に引き下げるという新しい合意を通じて、インドネシアの衣料品企業は、将来的により広範な取引機会を得る可能性があります。インドネシアのオーストラリア向け繊維輸出は、ベトナム(2億7100万米ドル)、インド(4億8800万米ドル)、バングラデシュ(6億4000万米ドル)をわずかに下回る4位に入っており、成長の余地が依然として見込まれています。
オーストラリアとの自由貿易協定は、各企業が輸出先の多様化を目指しているインドネシアの日用消費財(FMCG)部門においても、重要な役割を果たすことが期待されています。オーストラリアは2017年にインドネシアから14億米ドルの消費財を輸入したと記録されていますが、この貿易協定により、インドネシア企業が生産量の増加を達成し、輸入消費財部門における市場支配の維持につながる可能性が高いといえます。
オーストラリアのGDPは、全体の10%を占めるインフラ産業の貢献がみられ、政府は現在および将来の公共インフラ投資に350億米ドル以上費やすことを宣言しています。弊社のデータによると、2018年のオーストラリアの上位輸入品の1つは、主にブルドーザーや掘削機などの機械でした。しかし、インドネシアは市場全体の11.9%しかシェアを獲得していませんでした。このため、現地インドネシア企業にとっては、当然狙うべきターゲット市場とされています。
オーストラリアからの投資機会
FTAで合意された重要な内容の1つは、インドネシアにおけるプレゼンス拡大を試みるオーストラリア企業に対して、多くの特権が与えられる点です。国内のシステムやインフラの面で現在は信頼に欠ける医療分野を含む複数の業界おいて、将来的な投資が行われる可能性がきわめて高いといえます。医療機器とリソースの両方の面で医療インフラが不十分である現状は、オーストラリアから医療分野の投資を受けることで、改善可能となります。年間50万人以上のインドネシア人が海外へ渡航し医療サービスを受けていますが、潜在的な投資により、このアウトバウンドの医療ツーリズムにより失われた収益を補うことも期待されます。
一方、テクノロジー分野においては、インドネシアは国内でインターネット、スマートフォン、ソーシャルメディアが普及したことにより、スタートアップのエコシステムに大きな成長がみられます。オーストラリアからの直接投資により、スタートアップユニコーン企業4社の立ち上げに成功したインドネシアのスタートアップエコシステムが、さらに成長する可能性があります。インドネシアのスタートアップ投資は過去5年間で68倍に増加しており、2016年には14億米ドルに達し、2017年の最初の8カ月間で30億米ドルへと跳ね上がりました。こうした状況から、両国間のFTAにより、オーストラリアの投資家が東南アジア最大の経済規模を誇る市場へアクセスするための機会が拡大すると予測されています。
貿易協定から想定される問題点
IA-CEPAにより多くの機会がもたらされる一方で、インドネシアの企業経営者にとっては、いくつか警戒すべき点があります。考慮すべき明確なポイントの1つは、インドネシア市場への新しい企業の参入です。この協定は、オーストラリアの企業経営者によるビジネス展開を積極的に促すものであるため、国外の製品やサービスで国内市場が飽和し、現地企業の市場シェアが低下する可能性があります。
加えて、インドネシアは政治的な不安定さや法制度の複雑さから、依然として貿易や投資上のリスクを伴う国であると考えられています。不確実性をはらむ法制度や政治紛争は、オーストラリアの投資に不利な結果をもたらす可能性もあります。4月に予定されている大統領選挙においては、同国における経済ナショナリズムと経済自由主義の間で、議論が対立するとみられています。FTAが来年発効した後にも、インドネシアの企業や業界関係者の利益を保証することは、現在、インドネシア政府と下院にとっては最優先事項となっています。
自由貿易協定に向けての取り組み
オーストラリアの市場には大きな成長の機会を見出すことができるものの、参入が容易な市場とは捉えられていません。貿易協定が来年発効されるのを前に、留意しておくべき市場参入戦略におけるヒントをいくつか紹介します。
まず、オーストラリア市場への参入を目指すインドネシア企業は、市場に関する知識とターゲット業界におけるネットワークを有し、必要な支援を提供してくれる現地の代理店との協力関係を構築する必要があります。現地市場に関するインサイトを通して、オペレーションや製品のニーズを理解することが可能となるため、この戦略は市場の不確実性への対策に役立つといえます。
もしくは、興味を抱いている企業は、事業の立ち上げプロセスをスピードアップさせるために、オーストラリアの現地企業との合弁会社を設立することも望ましい手段といえます。この手法を通じて、インドネシアの企業は、貿易協定が持つ性質による多くのビジネス面でのリスクを負うことなく、オーストラリア市場でのプレゼンスを拡大させることが可能となります。