マレーシアのハラール産業は、GDPの8.1%にのぼると見られ、同国で最も堅調な産業の一つです。Statistaによると、2020年の調査でマレーシアの総人口の約63.5%がイスラム教徒であり、ハラール市場はマレーシアのビジネスと経済成長にとって極めて重要な分野とされています。
世界がポストパンデミック時代に移行し、デジタルトランスフォーメーションの加速と消費者のニーズや行動の変化が進む中、マレーシアのハラール産業が成長するためには、こうした変化を受け入れ、官民のパートナーシップを通じて成長分野に注力し、業務最適化と生産性向上のためのデジタルソリューションを導入することが重要です。
マレーシアのハラール産業の概要
イスラム経済の動向について発信するSalaam Gatewayが毎年発表している「世界イスラム経済レポート」では、「イスラム経済」を、イスラム法と倫理の影響を受ける主要製品とサービスからなる分野と定義しています。YCP SolidianceマレーシアオフィスのマネージャーAdeline OoiとアソシエイトBenjamin Yongは、ハラール産業を大きく4つに分類しています。
- ハラール食品・医薬品・化粧品:動物の屠殺方法はイスラム法で定められており、「ハラール」と呼ばれます。豚肉やその加工品、アルコール、その他中毒性のあるものは摂取することが許されず、「ハラーム」と呼ばれます。これらのルールは食品だけでなく、医薬品や化粧品などの摂取物や外用物にも適用され、ほとんどのイスラム教国には、製品がハラール認証されていることを保証するための法律が制定されています。
- イスラム金融:クルアーンとスンナには、利子を伴わない公正な商取引を保証するための指針が示されています。イスラム金融はイスラム経済において非常に重要であり、銀行、資本市場、資産管理、保険などに関係します。商取引に際しては、イスラム教の原則に従って取引条件を明確に定義し、曖昧さをなくすことが肝要です。
- 衣服とファッション:クルアーンとスンナは控えめな服装を重視しており、多くの一般的なイスラム教徒も、長い着丈で体を覆い、透けない布地を着用しています。また、イスラム教圏では、サステイナブルな商品やエシカルな商品が衣服選びの基準として人気を集め、重要視されています。
- 観光とメディア・レクリエーション:クルアーンやスンナには、ギャンブルや飲酒などの不法行為を避けることが説かれており、旅行やレクリエーション活動を計画する際にも考慮されます。
マレーシアは、イスラム金融、ハラール食品、ムスリムフレンドリーな観光、メディアとレクリエーションの項目で高い評価を受け、9年連続で世界1位となりました。また、医薬品は2位、化粧品・ファッションでも9位にランクインしており、マレーシアの政府・企業が業界の発展に力を入れていることが分かります。このことは、企業が市場に参入し、成功するためのより多くの機会を提供することに繋がります。
マレーシアのハラール市場の成長分野と提言
マレーシアは、世界最大規模の産業であるイスラム金融とハラール食品分野の発展に注力しており、現地や海外のデベロッパーといくつかのパートナーシップを締結しています。
イスラム金融分野では、2021年にイスラム金融資産が9%、総資産が20%増加しました。新型コロナウイルスの流行による消費者行動の変化から、フィンテックが有望な主要成長分野であることは明白です。金融機関は現在、遠隔操作や非接触型サービスの開発を模索しています。その一例が、イスラム法に則った倫理的なクラウドファンディングに注力するマレーシア初のフィンテック企業、Ethis社です。マレーシアにおけるフィンテック全体の成長とデジタル化の継続的な加速は、ハラール市場への参入や業界内で独自領域の開拓を目指す企業に市場機会を提供しています。
ハラール食品に関しては、国内のハラール産業を統括する連邦政府機関であるハラール産業開発公社(HDC)が、ガイドラインを満たしたハラールマレーシア工業団地(HALMAS)として14の戦略的地域を指定しました。工業団地事業者がハラールパーク開発に関するHDCの要件を満たしてHALMASに認定されると、貿易・投資促進などの優遇措置を受けることができます。現在、HALMASは約20万エーカーの敷地を有しており、ケロッグアジア、Cargill Palm、F&N Dairies Manufacturing、コカ・コーラボトラーズ等の多国籍企業が進出しています。
マレーシアのハラール産業は、2020年以降10年間の有意義な社会経済的発展を実現するための国家開発計画「第12次マレーシア計画(12MP)」でも重点分野の一つに指定されています。マレーシア政府は、2025年までにハラール産業の輸出収入を560億リンギットに拡大することを目指しており、この分野に関わるビジネスを支援するための強固なエコシステムを構築しています。
マレーシアは、世界イスラム経済レポートで上位にランクインしており、政府もこの分野のさらなる発展に取り組んでいることから、国内外の企業にとって、ハラールビジネスに関する格好の投資先となっています。YCP SolidianceのマネージャーAdeline Ooiは、この好機を最大限に活かすために、次のような提言をしています。
- FMCGや金融分野で事業を行う現地企業・外資系企業は、現地の需要に加えてインドネシア・中東などイスラム教徒が多い他の地域の需要も考慮して、商品・サービスの多角化を検討すべきです。また、特に中~大企業にとっては、M&Aも多角化に向けた選択肢の一つとなります。
- 新規参入企業の場合、特に低資本で始められる観光やメディアの分野では、ハラール消費者に特化したニッチなビジネスモデルを構築することが有効です。
YCP Solidianceは、マレーシア企業・外資系企業による同国のハラール産業への参入を支援します。幅広い業界における市場調査のノウハウ、エンドツーエンドのFAサービスの経験、そして強力な現地チームを通じて、ハラール産業での成功に向けて、事業の戦略立案や多角化、市場参入などの知見を提供します。