半導体工業会(SIA)のデータによると、2022年の半導体市場は、下半期に世界的に減速し第4四半期の売上高が前期比約7.7%減少した一方で、年間売上高は過去最高の約5,730億米ドルに達しました。
統計調査データプラットフォーム「Statista」は、2023年の世界半導体売上高は微減し、約5,500億米ドルになると予測しています。しかし、長期的な視点では、主にアジア市場で進められている開発が市場を牽引することで、引き続き堅調に推移する見込みです。
グローバル企業による東南アジアへの参入
世界最大級の半導体市場である中国は、アジアで大きな存在感を示していますが、地政学的な緊張の高まりを背景に、米国など国外の半導体メーカーが撤退を進めています。世界半導体製造装置市場の35%を占める米国企業3社は、中国から東南アジアへ生産拠点を移転しはじめており、シンガポールやマレーシアで人員確保および生産能力向上を図っています。
こうした動向から、今後に向けて以下3点の示唆を得ることができます。
(1)サプライチェーンは一時的に混乱するが、オペレーション移行後は安定する
(2)中国半導体企業による生産自立に向けた取り組みが強化される
(3)半導体業界におけるサプライチェーン多様化が長期的に進行する
この他にも、各国政府が民間企業による半導体生産にインセンティブを与える枠組みを整えるなど、グローバル企業のアジア参入を促進する動きが見られます。
たとえば、インド政府は、半導体・ディスプレイ生産を行うグローバル企業を誘致するために、100億米ドルのインセンティブ計画を開始しました。この計画には半導体工場建設にかかる費用の最大50%を助成する方針が含まれます。現在すでに、ニューヨークを拠点とするGlobalFoundriesやアブダビを拠点とするInternational Semiconductor Consortium(ISMC)などのグローバル企業が制度を利用しています。
日本政府も同様に、国内外の半導体企業に対する生産拡大を目的とした支援策を構築しました。「日経アジア」の報道によると、この施策は、電気自動車用半導体チップ、生産設備、原料供給に関連する設備投資費用を一部補助する内容で、日本国内で10年以上継続生産することを条件に、28億米ドル規模の支援が予定されています。
今後、半導体市場でプレゼンス獲得を目指すアジア各国でも同様の枠組みが推進されると考えられます。そのため、投資家はアジア全域で積極的に投資機会を検討する必要があります。
アジアにおける投資トレンド
消費者需要の減退は半導体産業へ短期的な打撃を与えましたが、アジアに拠点を置く多くの企業が、アジア地域での投資を継続する意向を示しています。たとえば、中国の大手半導体メーカーSemiconductor Manufacturing International Corp.(SMIC)は最近、上海や天津、金城などにおける生産拡大や新規工場建設に関する計画を継続すると発表しました。
また、国境を越えたコラボレーションも半導体産業を牽引し、世界市場におけるアジア全体の位置づけを強化することが期待されます。
フィリピンの新聞「Manila Bulletin」は、日本の半導体・電子機器メーカーからフィリピンに対する投資が予定されていることを報じました。フィリピンでは2021年時点で総輸出額740億米ドルの内56%をエレクトロニクス分野が占めていることを考慮すると、この投資は非常に重要であると言えます。さらに、これにより推定1万人の雇用創出が期待されています。こうした投資は、二国間関係だけでなく、経済全体、さらには半導体産業の長期的な見通し改善に繋がります。
アジアの半導体メーカーは短期的な課題に直面していますが、産業基盤を強化するための投資を続けており、長期的な展望は明るいと言えます。