原油価格の安定と景気回復の見通しを考慮すると、湾岸諸国におけるプライベートエクイティ(PE)は長期的に見て有望であるといえます。この前向きな見通しは、この地域の起業家や中小企業を強化することを目的とした、政府による企業支援を目的とする改革によっても支えられています。
それに加えて、投資資本の流入や個人消費の拡大が、GCC経済の回復をさらに強化しています。例えば、IMFによると、UAE経済は平均2.5%の実質GDP成長率を示しており、サウジアラビアは今後5年間で2.4%の実質GDP成長率を達成すると予想されています。この景気回復を背景に、湾岸地域のPEは、新規投資とEXxitの両側面で持ち直す可能性が高いと考えられます。
GCCでには、著名な地域のユニコーン(CareemやSouq)、フィンテックプラットフォーム(YallaCompare、PayTabs、Souqalmal)、さらにはeコマース企業(AWOK、Mumzworld、the Luxury Closet)など、いくつかの注目すべき成功企業が拠点を構えており、長年にわたり巨額の資本と評価を集めています。
これらの企業はまた、高額の評価額でのExitを実現しており、その一部は、過去数年間でGCCでみられたExitでも最大規模のものでした。CareemはUberに31億米ドルで買収され、アマゾンは5億8000万米ドルでSouq.comを取得しています。
新たに導入された規制とインセンティブ
GCC政府はまた、持続可能で多様な民間部門を開発するために、過去4~5年間で、積極予算、企業支援改革、景気刺激策、FDIの機会創出に至るまで、いくつかの画期的な決定を下しました。
UAEは最近、国内で13分野にわたる122の経済活動について、最大100%の外国所有を承認し、特にeコマース、IT、教育、医療、再生可能エネルギーなどの収益性の高い分野に関して、国外の投資家向けに新たな機会を提供しました。
UAE政府はまた、専門家や退職者向けに「ゴールデンカード」永住権プログラムと長期滞在ビザを導入し、多くの起業家だけでなく、企業に対しても、同国への投資を奨励する動きを取っています。同様に、アブダビは民間部門のインセンティブとして、500億ディルハムの景気刺激策(対象期間は3年)を提供し、構造改革を推進しました。
一方、サウジアラビア王国は、同国を「ビジネスに開かれた」経済国家に変革させるための手段として、2030年までに中小企業のGDP貢献度を35%に引き上げ、FDIをGDPの5.7%にまで高めることを宣言しました。さらに政府は、特にスタートアップや中小企業向けの投資環境を形成するために、2000億米ドルの民営化プログラムを実施しました。
地域のPE拠点で生み出される魅力的なリターン
テックハブ、インキュベーター、アクセラレーター、およびPE ・VC企業の繁栄は、政府の有利な政策スタンスと相まって、湾岸地域における起業文化に火をつけています。ソブリン・ウェルス・ファンド(SWF)と政府投資家は近年、アクセレレーター/インキュベーターであるオマーン・テクノロジー・ファンドと、その最初の戦略的VC企業IDO Investments、そして今年開始された5億3500万ディルハム規模のアブダビのハブ71を含む、地域のPE拠点の設立に協力してきました。
Flat6Labs、Astrolabes、FinTech Hive、Cloud10、DTECなど、GCC諸国では、スタートアップや中小企業の育成に注力し、新しいテクノロジーとイノベーションを促進することに焦点を当てたフリーゾーンがいくつか登場しています。その結果、IT、eコマース、フィンテック、メドテック、エドテック、ヘルステックなどのテクノロジーを用いた新分野のスタートアップが台頭し、投資家の関心を集めています。
これらは、地域の経済多様化アジェンダにとって依然として重要な、経済面での新しい機会を提示する動きです。2019年は、1110億米ドル規模の14件のディールがみられたeコマース・オンラインマーケットプレイスを中心に、テクノロジーベースの分野が、国内PEディールの大半を占めたことから、GCCにおけるテクノロジー分野の魅力が強調される結果となっています。エドテック(1360万米ドル相当の2案件)、フィンテック(960万米ドル相当の4案件)、IT(590万米ドル相当の6案件)がこれに続きました。
さらに、この地域のフィンテックスタートアップには、過去10年間で1億5000万米ドル相当の投資が行われたのに対し、今後10年間で20億米ドルの民間資金を調達する見通しです。
マクロ経済・地政学的リスクによる低迷
湾岸諸国のPE産業は、2014年以降、不安定な原油価格と地政学的リスクの高まりに伴うマクロ経済の減速により、課題に直面しています。それに加えて、この地域最大のバイアウトファームの破綻は状況をさらに悪化させ、業界に対する機関投資家の信頼が大幅に損なわれました。
その結果、資金調達は消極的な動きを見せており、2018年にはMENAに注力するPE案件はわずか8件(4億600万米ドル)にとどまりました。これに対して、2017年に10件(12億米ドル)、2015年に143億米ドルが調達されていました。クウェートのグローバル・インベストメント・ハウスやアブダビのワハ・キャピタルなどの注目すべきPE企業は、投資家の否定的な心理を理由として、資金調達計画を廃止または延期しました。
こうした状況からディールも勢いを失っており、2018年のMENA地域でPEの支援下で行われた買収はわずか17件で、2016年の32件、2015年の31件、2014年の46件と比較すると大幅に減少しています。