2022年5月、スペースXのCEOであるイーロン・マスク氏は、同社の衛星インターネットサービス「スターリンク」をフィリピンで開始し、2023年にはインドネシア、マレーシア、ベトナム、ミャンマーにも参入することを自身のTwitterで発表しました。

日経アジアの記事では、インターネットの認知度と利用率は高いものの、地方での通信速度に課題がある東南アジアにおいて、「スターリンク」は衛星インターネット市場の担い手となる準備が整っているとしています。

特にフィリピン諸島は、衛星インターネット産業にとって有望な市場となる可能性があります。7,000を超える島々(その大半はインターネットへの接続性が低い)への衛星インターネットの普及は、より高速なインターネットを求めるフィリピンの人々だけでなく、より効率的な基本行政サービス、遠隔地に拠点を置く企業の接続性、そして同国で芽吹くスタートアップ企業のエコシステムにも画期的な変化をもたらすと予測されています。

フィリピンのインターネット経済

2022年に発表されたフィリピンの報告書「We Are Social」では、フィリピンのインターネットユーザー数は7,601万人に上り、2021年から2022年初頭までに210万人増加したと推定されています。同国は世界でも有数のインターネット利用国であり、「世界のソーシャルメディアの首都」と呼ばれています(Facebookの親会社であるMetaは、フィリピンのユーザー数は約8,300万人に上り、中には複数のアカウントを持つ人もいると推定しています)。

 

しかし、同国のインターネット速度は、東南アジアの近隣諸国と比較するとかなり低い水準にあります。2021年のVice Asiaの記事によると、フィリピンのダウンロード速度の中央値は32.37mbps/秒で、世界の速度ランキングで約100位となっており、220mbps/秒のタイや247mbps/秒のシンガポールとは大きな差があります。

衛星インターネットアクセスは、フィリピンに住む人々のインターネット体験を向上させるだけでなく、国の経済にも影響を与えます。YCP Solidianceは、ホワイトペーパー「Road to Recovery:東南アジアにおけるパンデミック後のビジネス展望」の中で、フィリピンのインターネット経済の規模は2021年時点でASEAN6カ国の総額の約17.1%を占めており、フィンテックや物流などの分野の成長を促進すると予想しています。

衛星インターネットにおけるパートナーシップの可能性
フィリピンの衛星インターネットの主力となるサービスが開始されたことで、同国のスタートアップの3本柱であるeコマース、フィンテック、ロジスティクスのさらなる成長が期待されています。

YCP Solidianceは、レポート「フィリピンのスタートアップの動向」の中で、同国のパンデミック後の経済回復を長期的に支える、スタートアップ企業のエコシステムを成長させることの重要性を指摘しています。衛星インターネット回線による接続性の向上は、金融リテラシーや物流の分野、特に農村部に大きく貢献するアグリテックのような新興企業のトレンド事業を可能にします。

スターリンク以外にも、フィリピンの通信事業者であるPLDTやGlobeが、カナダやアメリカの企業と提携し、衛星インターネットサービスの開発に取り組んでいます。また、日本のスカパーJSATグループは、現在、フィリピン北部の風力発電機のモニタリングのために衛星インターネットを提供しています。

消費者がより高速なインターネット通信と地方の回線拡充を求めていることから、衛星インターネットサービスがフィリピンに参入し、成長するための未来は明るいと言えます。今後は、さらに多くのプレーヤーが現地市場を開拓し、衛星インターネット産業の認知度が向上することが期待されます。

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