設備集約型のエネルギー事業では、生産性の低下は必ずしも現場の努力や責任感、技術力の不足によって生じるものではありません。多くの場合、その背景には、現場を支えるオペレーティングモデルの不安定さがあります。
本事例では、グローバルに事業を展開する総合エネルギー企業が、生産性低下の要因を特定した方法を紹介します。同社では、標準化された業務プロセスや計画策定の仕組み、保全管理システム、経験豊富なマネジメント体制を備えていたにもかかわらず、大きな生産性の損失が発生していました。
YCP Renoirが体系的な分析を実施した結果、その根本原因を特定するとともに、初年度で約2,500万米ドルの改善余地があることが明らかになりました。
オペレーティングモデルの不安定さが生産性低下を招く
対象企業では、以下のような課題が継続的に発生していました。
保全・点検業務の負荷増大
設備故障の頻発
実作業時間(Wrench Time)の低下
計画の不安定化とスケジュールの遅延
生産機会損失(Production Deferment)
想定外の操業停止・中断
分析の結果、これらの根本原因は、オペレーティングモデルの不安定さにあることが明らかになりました。生産性の低下は、現場での実作業そのものではなく、その前段階にあたる計画策定や実行準備の非効率に起因していたことも確認されました。さらに、業務プロセス、システム、データ、組織行動を総合的に分析することで、オペレーションの安定化と設備の信頼性・健全性の向上に向けた改善機会を特定しました。
実行現場から逆算する分析アプローチ
YCP Renoirは4週間にわたり、業務プロセス、システム、データ、組織行動を対象とした体系的な分析を実施しました。主な分析内容と結果は以下のとおりです(一例)。

分析の結果、これらは個別の業務上の問題ではなく、より本質的な経営課題に起因していることが明らかになりました。すなわち、同社のオペレーティングモデルは生産性や実行品質を持続的に維持できる状態には至っておらず、その結果、現場の非効率や設備信頼性の低下を招いていました。
改善施策の実行ロードマップ
分析の結果を踏まえ、5つの改善施策を策定しました。

改善施策は、作業の妥当性確認、優先順位付け、ゲート管理、作業パッケージの品質向上、スケジュール管理に加え、資材・許認可・協力会社の準備状況を含む実行前工程の強化から開始しました。また、実行段階で得られた知見を次回以降の計画へ反映するフィードバックループを構築しました。
次に、マネジメントコントロールシステム(MCS)を再設計し、会議体、レポート、主要業績評価指標(KPI)、エスカレーションルール、アクション管理、意思決定権限を通じて、一貫した業績管理を実現しました。
続いて、朝礼や現場への移動の効率化、許認可の事前準備、資材配置、作業指示の明確化、日々の計画共有、実行可能な作業ストックの確保、監督者の運営ルーチン改善、課題解決の迅速化により、実作業時間(Wrench Time)を阻害する要因を削減しました。
さらに、根本原因分析(RCA)、再発管理、予防措置の品質向上、保全バックログの優先順位付け、設備間での知見共有を強化し、「故障への対応」から「故障の再発防止」へと転換しました。
最後に、掘削・坑井(D&W)、エンジニアリング・建設(E&C)、契約・調達(C&P)、物流支援(LSO)、協力会社、各種キャンペーン、技術改修を、統一された計画・実行準備サイクルへ統合しました。
オペレーティングモデルの安定化がもたらす潜在的な経済価値
本分析では、初年度における生産機会損失の削減効果として、2,500万米ドルの改善余地を特定しました。
ただし、この試算には保全バックログの削減効果や、実作業時間(Wrench Time)の改善による効果は含まれていません。追加で確保できる保全作業時間については金額換算を行っていないため、改善施策の基準値や目標値が確定すれば、2,500万米ドルを上回る経済価値が見込まれる可能性があります。
本事例は、設備集約型のエネルギー事業におけるオペレーションの不安定さが、オペレーティングモデルの構造的な課題に起因していることを示しています。実行現場から逆算する体系的な分析アプローチにより、こうした課題を特定し、その影響を定量的に評価するとともに、持続的な改善に向けた基盤を構築できます。
改善機会は、多くの場合、実行段階ではなく、その上流にある計画策定、実行準備、マネジメントコントロールに存在します。これらの領域を改善することで、安定性と再現性を備えたオペレーションの実現が可能になります。
頻繁な操業停止、場当たり的な保全対応、計画の不安定さ、実作業時間(Wrench Time)の不足といった課題を抱える企業にとって、オペレーティングモデルの安定性に着目した体系的な分析は、潜在的な経済価値を可視化し、組織全体の改善に向けた具体的な道筋を示す有効なアプローチとなります。